生成AIの世界では、OpenAI、Google、Anthropicなど米国企業が先行しています。
一方、日本でもNTT、富士通、Preferred Networks(PFN)、Sakana AI、NEC、ELYZA、ソフトバンクなどが、国産の大規模言語モデル(LLM)やAI基盤の開発を進めています。
最近の特徴は、単に海外モデルに対抗するだけではなく、日本語、行政、製造、金融、医療、ロボットなど、国内の産業や業務に適したAIを構築しようとしている点です。
国産LLMの競争が本格化
日本のAI開発競争では、まず大規模言語モデル、いわゆるLLMの開発が注目されています。
NTTは日本語処理に強みを持つ「tsuzumi」シリーズを展開し、富士通は「Takane」、PFNは「PLaMo」、NECは「cotomi」、ソフトバンク系のSB Intuitionsは「Sarashina」を開発しています。
ELYZAも日本語LLMの開発を続けています。
NTTの「tsuzumi 2」は、軽量でありながら日本語処理性能を高め、オンプレミスやプライベートクラウドなど、機密性の高い情報を扱う環境での利用を想定しています。
富士通の「Takane」では、単なる文章生成だけでなく、複数のAIエージェントが協調してソフトウェア開発を行う仕組みや、業務結果・人間からのフィードバック・制度変更などから継続的に学習する「自己進化マルチAIエージェント」の研究も進められています。
NECの「cotomi」やELYZAのLLMも、行政分野を含む国内での利用を想定して開発されています。
2026年には、NECの「cotomi v3」や、KDDI・ELYZAのLLMが、デジタル庁の「ガバメントAI 源内」で試用する国内LLMとして選定されています。
国立情報学研究所(NII)のLLM-jpも重要な存在で、2026年8月には、約332億パラメータの「LLM-jp-4 33B」が公開されました。
学習データやモデルの透明性を重視した研究開発が進められていて、大学や研究機関などが、日本語LLMを研究するための基盤としても注目されます。
また、PFNは国産生成AI基盤モデル「PLaMo 3.0 Prime」を2026年6月に正式リリースしています。
PFNはLLMだけでなく、AI半導体や計算基盤も自社で開発していて、ソフトウェアとハードウェアを一体化したAI基盤の構築を進めています。

競争力の鍵は半導体と計算基盤
AI開発では、モデルの設計だけでなく、学習や推論に必要な半導体、データセンター、電力なども競争力を左右します。
PFNはAI向け半導体「MN-Core」シリーズを開発していて、推論に特化した「MN-Core Lシリーズ」の初期モデルを2027年に発売する予定で、従来より高速かつ低消費電力での推論を目指していて、AI半導体まで含めた垂直統合を進めています。
海外では、NVIDIAがAI向け半導体で大きな存在感を持っていますが、日本企業がすべての領域で正面から競争するのは容易ではありません。
そのため、日本では製造業、ロボット、物流、材料開発など、特定の用途に最適化したAIチップやシステムで差別化する戦略も重要になります。
一方、AIデータセンターの電力消費も大きな課題です。
今後のAI政策では、半導体の確保だけでなく、再生可能エネルギー、蓄電池、冷却設備、送電網などを含めた計算基盤の整備も重要になります。
行政が国産AIの導入先に
国産AIの実用化で大きな役割を担っているのが行政分野です。
行政情報には、住民情報、税務、福祉、医療、災害対応など、慎重な取り扱いが求められるデータが多く含まれています。
そのため、国内のクラウドや国内開発モデルを組み合わせる「ソブリンAI」への関心が高まっています。
グラファーは、デジタル庁が一部をオープンソースとして公開する「ガバメントAI 源内」のコードを、さくらインターネットのクラウドと国産LLMに組み合わせ、国内完結型のソブリンAI環境を構築しました。
また、NTTの「tsuzumi 2」やNECの「cotomi v3」、ELYZAのLLMなども、デジタル庁の「源内」における国内LLMの試用対象として選定されています。
行政分野でAIを利用する場合、回答の正確さだけでなく、どのデータを使ったのか、誰が確認したのか、誤回答があった場合に追跡できるかといった管理面も重要です。
国産AIは、性能競争だけでなく、こうした運用要件への対応でも評価されることになります。
既存企業では業務特化型AIへ
企業へのAI導入では、全社員が自由に使うチャットボットだけでなく、業務データや既存システムと接続したAIエージェントへと関心が広がっています。
特に注目されるのが、AIを単なる文章作成ツールとして使うのではなく、設計、検索、テスト、問い合わせ対応など、複数の業務工程をまたいで利用する方法です。
富士通とソニー銀行は、2025年9月からソニー銀行の勘定系システム開発に生成AIを適用し、2026年7月時点で、基本設計から結合テストまでの開発期間を従来比30%短縮、工数を40%削減したと発表しています。
設計書、ソースコード、テスト資産などをAIエージェントが工程横断で活用する仕組みです。
この事例では、人が最終判断や品質保証を担いながら、AIエージェントが設計・製造・テストを支援しています。
こうした導入で重要なのは、AIに何でも任せることではありません。
文書作成、議事録、検索、設計レビュー、問い合わせ対応など、成果を測定しやすい仕事から始め、段階的にAIの利用範囲を広げていくことです。
特に金融、医療、行政などでは、AIの出力を人間が確認・承認する仕組みも重要になります。
導入率の数字には注意が必要
日本企業のAI導入については、調査によって大きな差があります。
帝国データバンクの2026年3月調査では、生成AIを業務で「活用している」企業は34.5%でした。
調査対象は全国2万3,349社で、有効回答は1万312社です。
一方、生成AIを「導入している」「試験的に利用している」など、調査によって質問や定義が異なるため、単純に数字だけを比較することはできません。
帝国データバンクの調査では、生成AIを活用している企業の86.7%が「業務への効果が出ている」と回答しています。
一方で、情報の正確性や専門人材・ノウハウ不足、情報漏洩のリスクなどが課題として挙げられています。
つまり、日本企業では生成AIの利用そのものは広がっているものの、すべての企業が本格的に業務へ組み込んでいる段階とはいえません。

これからの日本AI
日本のAI開発競争は、米国企業と同じ巨大モデルを作る競争だけではありません。
日本語性能、企業データの保護、オンプレミス運用、製造・行政・金融への適応、ロボットや省エネルギー設備との連携などが、日本独自の強みになり得ます。
また、AIエージェントやフィジカルAIの発展によって、AIは「文章を生成する技術」から、実際の業務や現場で「実行する技術」へと利用範囲を広げつつあります。
今後は、AIを導入したかどうかだけでなく、「どの業務で、どれだけ生産性や品質が改善したか」が問われるようになるでしょう。
国産モデル、AI半導体、国内クラウド、既存企業の現場データが結びつけば、日本のAI産業は単なる海外技術の利用者から、国内の社会課題や産業構造に合わせてAIを設計・活用する側へ進む可能性があります。
現段階の日本では、巨大な汎用AIだけを追いかけるのではなく、行政、製造、金融、交通、エネルギーなどの現場で、信頼性と運用性を備えたAIを実際の業務へ定着させることも重要な競争になっています。


