地球以外の惑星や衛星などの天体の環境、大気、温度、地形、生態系を人為的に改変し、地球の生命体が居住できるようにするプロセスや構想を『テラフォーミング』といい、本格的な科学的研究は、1961年に天文学者カール・セーガンが、金星の環境改造計画に関する論文を発表したことから始まりました。
最も有望なテラフォーミングの対象は火星で、火星の極地にある氷を溶かして大気中の水蒸気や二酸化炭素を増やし、温室効果で気温を上げる方法などが検討されています。
ほかにも、『太陽光を集める巨大な鏡を宇宙空間に設置する』、『黒い微生物や藻類で太陽光の吸収率を上げる』、『彗星や小惑星を衝突させて水や大気を供給する』など、さまざまなアイディアが提案されています。
テラフォーミングの課題
◇ 大気圧と温度の確保
• 火星の大気は非常に薄く、地球の7〜14%程度にしかならず、NASAの2018年の研究によると、火星に存在する全てのCO₂を利用しても、大気圧は地球の10〜14%までしか上がらず、人間がそのまま呼吸できる環境には到底及びません
• 平均気温も-60℃前後と極寒であり、液体の水を維持するには大規模な温暖化が必要です
◇ CO₂・温室効果ガスの不足
• 大気を温めるためのCO₂が現状では不足していて、外部から持ち込むか、人工的に生成する必要がありますが、いずれも莫大なエネルギーとコストがかかります
◇ 酸素の生成
• 光合成を行う微生物や遺伝子操作された生物を用いて、酸素を生産するアイデアが提案されていますが、十分な酸素濃度を得るには膨大な時間がかかります
◇ 放射線対策
• 火星には地球のような磁場がなく、宇宙線や太陽放射線が直接降り注ぐため、居住者の健康を守るためのシールドや地下施設が必要となります
◇ 生態系の構築
• 大気や温度、水循環の確立だけでなく、安定した生態系を構築するには段階的かつ長期的な計画が不可欠です

火星と金星はどちらも地球の近隣にある岩石惑星で、かつてはどちらもテラフォーミングの対象として検討されてきましたが、現在では火星が最有力候補とされています。
1.環境改変の難易度が大きく異なる
• 金星の表面温度は約460~500℃に達し、地表の大気圧は地球の約90倍と極めて高圧
• 大気のほとんどが二酸化炭素で、水もほとんど存在しない
• 過酷な環境を地球型に近づけるには、まず大気を大幅に除去し、温度を数百度下げ、さらに水を大量に供給する必要がある
• 必要なエネルギーや資源、時間は膨大で、数千年から数万年単位が想定されている
• 火星は表面温度こそ低い(平均-60℃)ものの、大気圧は地球の1/150程度と薄く、主成分は二酸化炭素です
• 地下や極地には氷として水が存在していることも確認されている
• 大気を厚くし、温度を上昇させることで、比較的「段階的に」地球化できる可能性がある
2.必要な改変の規模が小さい
• 金星の場合、まず気温を500℃から地球並みに下げる必要があり、そのためには太陽光を遮る巨大なシールドを宇宙空間に設置したり、大気中のCO₂をほぼ除去するなど、極めて大規模な改造が必要
• 火星は、温度上昇と大気圧の増加が主な課題ですが、極地の氷を溶かして水蒸気やCO₂を放出させる、温室効果ガスを人工的に生成するなど、現実的な技術で徐々に進めることができるとされている
3.水資源の有無
• 金星には水がほとんど存在せず、仮にテラフォーミングしても、地表に海を作るには外部から膨大な水を持ち込む必要がある
• 火星には地下や極地に氷が存在し、これを利用できる可能性がある
4.技術的・時間的な現実性
• 金星のテラフォーミングには、気温・気圧・大気組成・自転周期・水供給など、多くの根本的な課題があり、実現までに1万年以上かかるとも言われている
• 火星ならば、数百年から千年単位で段階的な改変が可能と見積もられていて、現実的な計画が立てやすいとされている
火星探査は数多く行われていて、環境や資源の詳細なデータが蓄積されているので、テラフォーミングの具体的なシナリオや技術開発が進んでいます。

SpaceXは、「人類を多惑星種にする」というビジョンのもと、特に火星移住計画に注力しています。
イーロン・マスク氏は「人類が絶滅リスクを回避し、持続的に生き残るためには、複数の惑星に住む必要がある」と語っていて、火星移住をその第一歩と位置づけ、具体的には2030年までに火星に基地を建設し、最終的には100万人規模の火星移住を目指すという壮大な構想を掲げています。
SpaceXが開発中の、大型宇宙船「スターシップ」は火星移住のための再利用可能なロケットで、大量の人員と物資を火星に輸送することを想定しています。
2024年3月にはスターシップの3度目の打ち上げに成功していて、今後も無人・有人の火星ミッションを段階的に進める計画です。
火星への最初の無人スターシップを2026年に送り込み、その後数年以内に有人ミッションを実施するスケジュールが発表されています。
テラフォーミングは、温度・大気圧・酸素・放射線・水循環・生態系といった多くの根本的課題を抱えていて、現状では「構想段階」から「基礎研究・技術検証段階」へと進みつつありますが、人類が火星で地球のように暮らすには、技術革新と長期的な取り組みが不可欠です。