サイバネティック・アバター(Cybernetic Avatar)とは、人間がデジタル技術やロボット技術などを活用して、自分自身の「新しい身体」として機能する分身(アバター)を持つことで、身体的・認知的・知覚的な能力を拡張し、現実世界や仮想空間で多様な活動を可能にする技術や、その概念を指し、単なる遠隔操作ロボットや自動化されたAIロボットとは異なり、「自分自身の意思」で操作できる分身です。
利用者はアバターを通じて身体所有感や、行為主体性を感じることができ、アバターを動かした経験は自分の経験として蓄積されます。
サイバネティック・アバターを利用することで、身体的な制約や地理的な障壁を超え、遠隔地での作業や複数の作業を同時にこなすことが可能になり、労働力不足の解消や、危険な環境での安全な作業、障がい者の社会参加促進など、さまざまな社会課題の解決が期待されています。
この技術の実現には、ロボット工学、AI、センシング技術、通信技術、ICT(情報通信技術)など、多様な分野の最先端技術が必要とされ、脳波や生体信号を利用したインターフェースの開発も進められています。
具体的な応用例
• 遠隔地のロボットや機械を自分の分身として操作し、現地で作業を行う
• 介護や医療の現場で、専門家が遠隔から患者のケアを実施
• 災害現場や宇宙空間など、危険または特殊な環境での作業を安全に代行
• 一人の人間が複数のアバターを同時に操作し、効率的に複数の業務をこなす
サイバネティック・アバターは、Society 5.0時代の実現に不可欠な技術で、人間の能力を拡張し、誰もが社会の一員として活躍できる新しい社会像とし、物理的・地理的な壁を越え、多様な人々が協働し、包摂的な社会を創造するための重要な要素となっています。
サイバネティック・アバターとAIロボットの違い
サイバネティック・アバター | AIロボット |
操作主体は「人間」 | 操作主体は「AI (自律的)」 |
身体所有感・行為主体性がある | 人間から切り離されて自律的に活動 |
人間の経験やスキルが蓄積される | AIが自ら学習・判断する |

内閣府が提唱するSociety 5.0時代は、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を目指す新しい社会像で、狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く「第5の社会」として、第5期科学技術基本計画(2016年閣議決定)で初めて提唱されました。
IoT、AI、ビッグデータなどの先端技術を活用し、サイバー空間に社会のあらゆる要素をデジタルツインとして構築、それを現実空間に反映させることで、持続可能性と強靭性を備えた社会を実現し、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会を目指し、年齢・性別・地域などの違いを越えて、誰もが質の高いサービスを享受し、活躍できることが重視されています。
【 技術開発の目標 】
• 2030年まで
1人が10体以上のアバターを同時に、1体操作時と同等の速度・精度で操れる技術の実現
• 2050年まで
複数の人が協力して多数のアバターを操作し、大規模・複雑なタスクを遂行できる社会基盤の構築
この実現に向けて、内閣府は「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」や「研究開発成果の社会実装への橋渡しプログラム(BRIDGE)」など、産学官連携による研究開発と社会実装を推進しています。